大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台高等裁判所 昭和31年(ラ)75号 決定 1957年2月16日

抗告人 債権者 株式会社青森銀行

訴訟代理人 小山内績

相手方 債務者 工藤清吾

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

本件記録によると、本件不動産の最低競売価額は合計金四、一三四、五三一円であるところ、抗告人の差押え債権にさきだつ不動産の負担は、抗告人の相手方債務者に対する根抵当権設定による貸金債権元本金五、〇〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三〇年四月一日から昭和三二年二月一〇日まで日歩五銭の割合による損害金一、七〇五、〇〇〇円、租税その他の公課の負担は合計金三八九、七一五円であつて、不動産上の総ての負担及び手続費用を弁済して剰余ある見込がないこと、原裁判所が昭和三一年五月三日抗告人にその旨を通知したのに、抗告人は右通知から七日の期間内に何らの申立をしないことが明らかであるから、本件競売手続は民訴法第六五六条により取消さなければならない。

抗告人は、不動産上の続ての負担及び手続費用を弁済する見込がなくとも、本件差押え債権にさきだつ不動産上の負担である債権は前示のとおり抗告人の債権であつて、競売手続を進行することにより、抗告人は抵当権を実行しないでも、債権の弁済を受けることができる利益があるから、かような場合民訴法第六五六条の適用がない旨主張するけれども、同条は、優先債権者が差押債権者(強制競売申立人)である場合を特に除外したものとは解されないから、所論は理由がない。

それゆえ、本件競売手続を取消し、競売申立を却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから、民訴法第四一四条、三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長判事 斉藤規矩三 判事 沼尻芳孝 判事 羽染徳次)

抗告の趣意

原決定を取消す。との裁判を求める。

原審は、本件不動産の最低競売価格をもつては、差押え債権にさきだつ不動産上のすべての負担及び手続費用を弁済して剰余ある見込がないから、その旨昭和三一年五月三日差押え債権者に通知したが、債権者は七日の期間内に何らの申立をしないとの理由で、本件強制競売手続を取消し、抗告人の競売申立を却下した。

しかしながら、民訴法第六五六条にいわゆる差押債権者の債権にさきだつ不動産上の負担とは、差押え債権者と不動産上の負担である債権を有する者と異る場合をいうものであつて、同一債権者の場合をいうものではない。本件不動産の差押債権にさきだつ不動産上の負担である金五、〇〇〇、〇〇〇円の債権につき、第一番抵当権を有する者は債権者である抗告人であつて、しかも不動産の負担として残るのは、わずかに金三九四、七一五円で、この金額は本件不動産の最低競売価格金四、一三四、五三一円よりはるかに少い。差押え債権者は、抵当権者と異り、当該不動産の換価権なく、また差押え債権者と差押え債権者の債権にさきだつ不動産上の負担である債権を有する者が異り、その負担が最抵競売価格をこえるときは、競売を実行しても何ら利益がないので、競売手続を取消すのである。しかし本件のように、差押え債権にさきだつ不動産上の負担である債権を有する者が差押え債権者である場合には、競売手続を進行することによつて、抵当権の実行をしないでも、抵当債権の弁済を受けることができ、競売手続を進める利益があるから民訴法第六五六条を適用して競売手続を取消すべきものではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例